December 3
『……お? こりゃあ、久し振りのシャバか』
『ふう、やれやれ。一年もあなたと一緒に詰め込まれて、あやうく真っ赤に染まるところでしたよ』 『なんでえ、こっちこそ白い毛がついてピンクになるところだったじゃねえか』 『まあまあ、出てきた途端にケンカはやめてくださいよ』 『おや旦那、久し振りだな』 『ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです』 『いやあ、あなた方同様ずーっとしまいこまれていましたからね。プラスチック製でよかったと思いますよ。これが竹製だったらきっと今頃、荷物に押しつぶされて折れるかしなるかしてましたよ』 『こちとら、潰されようが投げられようがへっちゃらだからなあ』 『しかし、一年も押入れの中でしょう? かび臭くなった気がしますよ』 『えー、おいちゃんたち、ずっーとあのなかにいたのー? あそこ、くらくてしめっててなんかいやだったなあ』 『おや、こちらは新入りの方ですか?』 『おお、つい先だってに投げ込まれたクチだ。今年の新製品なんだとよ』 『うん、ほらみて。わたし、ところどころぽわぽわしてるでしょ。ことしのはやりなんだってー』 『しかし、あいつも懲りないヤツだなあ』 『まったくです。今年こそはきちんと最後までやり遂げていただかないと。もう解かれるのはまっぴらですよ。あちこちひっかかって、だいぶ身が痩せた気がします』 『まだいいじゃねえか。俺なんか解かれるどころか使われてもいないんだぞ?』 『えー?そうなのー? でもあのおねえちゃん、ことしはやるきなんだってはりきってたよ? わたしといっしょに、ほんもかってたし』 『ああ、そういやさっきから何か熟読してますね。もしもしー、そこの方』 『はあい、なあに?』 『今、ご主人様が読まれてるページには、一体どんなことが書かれてるんですか?』 『なにって、マフラーの編み方だけど? 今は途中で色を変える方法を必死に読んでるわよ』 『ああ、そりゃいい。マフラーならひたすら編んできゃいいもんな』 『しかし、途中で色を変えるということは……』 『なんかねー、くりすますからーのまふらーにするんだっていってた。かれしさんにあげるんだってー』 『はっは、こりゃいい。赤白緑のマフラーか』 『……どこかの国の国旗ですか』 『まあ、いいじゃありませんか。やる気になってくださったのはありがたいことです』 『おお、一年ぶりに私を持ってくれましたね。さあ、頑張りましょう。わが主人』 『わっ、さいしょはわたしから?? おねがいだから、あんまりひっぱらないでねー。せっかくのぽわぽわ、とれちゃうよー』 『ということは次は私ですね。頼みますよ、今年こそちゃんと最後まで編んでください』 『俺を編み上げるまでくじけんなよ! 今年こそ、あんたの彼氏さんの顔を拝ませてくれや』 『あらあら、このご主人様は随分のんびりさんなのね? 大丈夫、今年はアタシがついてるからね』 『……しかし、これってクリスマスプレゼントですよね?』 『もう一月ないよな。間に合うのか??』 『わわっ、そんなにぎちぎちにあまないでー』 『ううっ、そこは目じゃありませんご主人様。それでは一目増えてしまいます……』 『……先行きが不安ねえ……』
Story by seeds
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何のお話かと思われた方も多いでしょうが(^^ゞ 毛糸さん(赤・白・緑)&編み棒さん&編み方の本さんの会話、でございました。 ちなみに、押入れに一年以上しまいこんだ辺りとか、いつの間にか一目増えている辺りとか、ほぼ実話です(笑) で、出来上がり予想図はこんな感じ。→ わー、こんなマフラー送られたら笑うしかないだろうなー(笑) 最近は100円ショップでも、色々な毛糸や編み方の本が売られているので、不器用な私でも、時々無性に編み物がしたくなって、衝動買いしてしまったりするんですが、大抵は編む前に熱が冷めて押入れ行き(^^ゞ うちの押入れでも、きっと毛糸たちが盛大にぼやいているのでしょう。
お題:「マフラー」「贈り物」
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