December 11



 RRRRR...RRRRR...

 Hello. ...Yes,Jessie speaking.

 ……そう、良かった。クリスマスには間に合いそうなのね。
 ううん、母さんも首を長くして待ってるって。あなたに秘伝のマッシュルームソースを堪能してもらうんだって、今から張り切っちゃってるわ。

 え? おじいちゃん?
 うん、そうなの。ごめんなさいね。今年のクリスマスはあなたを紹介するんだからって念を押したんだけど、おじいちゃんったら、

『男にはな、やらなきゃならないことがいっぱいあるんだ。お前の彼氏も男なら分かってくれるはずだ』

 とかなんとか言って、今年もいそいそとでかけてっちゃったのよ。
 ……そう、毎年のこと。12月に入ると途端にいなくなって、新年の鐘が鳴り終った時には戻ってきてる。
 一ヶ月も、どこで何をやってるんだか。そろそろいい年だっていうのに、困っちゃうわ。

 ……え? やだ、その話、あなたにしたことあったかしら?
 そう、まだ私が小さい頃、おじいちゃんがどこに出かけて行くのか不思議で不思議で、こっそり後をつけちゃったことがあるのよね。
 途中まではうまくいったのよ? 家の近くの雑木林に差し掛かったところで、切り株につまづいちゃって。そう、夜だったから、よく見えなかったのよ。
 え? 昔からそそっかしかったんだ? 悪かったわね、成長がなくて。
 えっと、どこまで話したかしら? そうそう、切り株につまづいたところね。引っくり返って、慌てて立ち上がって――そうしたらもう、おじいちゃんの姿はどこにも見えなくて。

 結局、家を抜け出したのはすぐにばれたみたいで、慌てて探しに来た母さんに見つかって、大目玉を食ったわ。なんて危ないことをするのって。
 新年になって戻ってきたおじいちゃんにも、こっぴどく叱られたし。
 そういえば、あの年のクリスマスプレゼント……お願いしていたテディベアの他に、大量の絆創膏まで靴下に詰め込まれてたわ。おかげで絆創膏にはしばらく不自由しなかったわね。

 そういえば、母さんが言ってたわ。私を連れてこの家に戻ってきた時が、ちょうどクリスマスだったんですって。
 何年も前に喧嘩別れして出て行って、しかも勝手に結婚した挙句に夫――私の父さんね――はあっという間に死んじゃって、頼る人もなく、意を決して戻ってきたのに、家はもぬけの殻で、玄関は開きっぱなしで……家の中は荒らされてはいなかったけど、何か事件に巻き込まれたんじゃないかって、大騒ぎしちゃったんだって。
 おじいちゃんったら偏屈で近所づきあいもほとんどなかったから、周りの人は母さんが騒ぎ立てるまでおじいちゃんがいないことに気づかなかったんだっていうのよ。やっぱり、近所づきあいって大事よね。
 これはきっと誘拐だ、いやもしかしたら殺人事件か、なんて言い合ってるところに、新年明けたらけろっとした顔でおじいちゃんが戻ってきて、そりゃもう大変な騒ぎだったらしいわよ。
 私はまだ3歳だったから、あんまりよく覚えてないんだけど。でも、物凄い剣幕でおじいちゃんに怒鳴って、わんわん泣いてる母さんと、おろおろして謝ってるおじいちゃんの姿は何となく覚えてるの。

 ……あら、ごめんなさい。母さんが呼んでるわ。なあに母さん? え? ジンジャーマンが焦げかけてる? きゃあ、大変!
 長話してごめんなさい。それじゃクリスマスの日に。待ってるから。

 Thank you for the telephone.
 Yes......yes.
 Good night Ralph.

Story by seeds



 これ、実は去年のADVENT CALENDARに出した「DEAR SANTA」第二弾の続きだったりします。この話単独だとちょっと分かり辛いと思うので、「16日」と「18日」のお話まで読んでいただけると、繋がってるのが分かると思います。
 これは、とある方と去年の企画について話している時に、「あのあとは実はこういうオチを考えていて〜」というお話をして、そこからイメージが更に湧きあがって、つい書いてしまいました(^^ゞ


お題:「贈り物」「ジンジャーマンクッキー」

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